Wahoo POWRLINK ZERO計測精度と特性について

Wahoo POWRLINK ZERO計測精度と特性について

Wahoo POWRLINK ZERO計測精度と特性について

昨年から販売が遅れていた、SPEEDPLAYペダルのパワーメータである、POWRLINK ZEROがWahooから販売されました。ペダル型のパワーメータとしてはPowertap P1を愛用してきましたが、SPEEDPLAY型の軽量さにも興味があり、早速購入してみました。

個人的にはパワーメーターを利用する上で、一番重要なのは計測精度です。結論から言えば、現時点では、PowerTapやKICKR(2021)のようや直接計測方式のパワーメーターと比較すると、無視できないほど乖離が大きく、メインのパワーメータとして活用するのは難しいと言うのが、率直な印象です。

購入から数週間、試走を繰り返してPOWRLINKの特性も見えてはきましたが、Wahooや日本代理店からの回答を踏まえると、レースはもとより、トレーニング用の機材としても活用は難しいというのが、正直な感想です。同じペダル型のPowerTap P1と比較すると、精度的な課題があり、実用的な製品とは言えない印象です。

付属品について

POWRLINKは、基本的には同社のSPEEDPLAY ZEROにパワーを計測するパワーポッドが装着されつつも、非常にコンパクトかつ軽量な製品です。付属品としては、通常のSPEEDPLAYとのクリートに加えて、パワーポッドとシューズどの接触避ける目的の、黒いスペーサーが付属しているのが特徴です。

後述するように、POWRLINKで正確なパワー測定をするには、クリアランスの確保が一つの必須項目となります。スタックハイトに影響がありますが、シューズとパワーポッドのクリアランスが狭い場合には、安全と正確なパワー精度を確保するために、付属のスペーサーを装着する必要があります。

実走での違和感

購入してから、近所のコースを試走としていたのですが、自分の感覚値とPOWRLINKの計測値の違いが気になっていました。感覚的には、体感よりパワー出力が遅れてるような感じです。

この違和感は、後に実走におけるPOWRLINKの測定値の低下と判明しますが、当日の体調もありますし、デュアルレコードによる直接比較までは違和感の原因はは分からずじまいで過ごしていました。

違和感が決定的になったのは、富士スバルラインをPOWRLINKを装着して登った時です。目標としていたパワーは出せず、最後まで調子が悪い感じでのゴールとなりました。

タイム(分) 平均(W)  PWR(W/kg) NP(W) 最大(W)
POWRLINK 77 201W 3.29 207W 632W

最終的にはパワーウエイトレシオ的には3.29W/kgでの登頂となりました。ただ、料金所からの単独走で78分と、パワーウエイトレシオの割には、思ったよりタイムは遅くはありません。

この直後の2本目の登頂では、PowerTapでの計測で3.34W/kgで99分のゴールとなるのですが、今まで感じていた違和感が決定的となりました。本来、3.29W/kgのパワーウエイトレシオであれば、99分を超えるゴールとなるはずです。

屋外での実走比較 (PowerTap GS比 21.0%↓)

富士スバルラインの2本目は、POWRLINKと普段よく使っているPowerTapのハブ型のパワーメータ(GS)を、2台のGarminコンピューターで其々を同時計測しながら登ってみました。いわゆる、デュアルレコードによるパワーメーター計測値の直接比較です。測定時のPOWRLINKのファームウェアバージョンは「1.0.4」でした。

屋外試走での結果は、全区間平均でハブ型のPowerTapと比較すると、絶対値では40Wほど、比率的には21%ほどPOWRLINKの計測値が低い結果となりました。帰宅してから、DCR Analyzer[1]で比較してみたところ、特定の勾配の区間というよりは、全区間でハブ型のPowerTapより絶対値が低い傾向が観察できます。

タイム(分) 平均(W)  PWR(W/kg) NP(W) 最大(W)
PowerTap GS 99 204W 3.34 210W 477W
POWRLINK 99 161W 2.59 168W 412W
差異 (W) - 43W↓ - 42W↓ 65W↓
差異 (%) - 21.0%↓ 0.75%↓ 20.0%↓ 13.6%↓

元々、POWRLINKはレース用に完組ホイールを利用する目的で、今年の富士ヒルクライムにでも使ってみようと購入したものでした。ただし、数%の乖離ならともかく、20%を超える乖離は主観的な体感強度とも乖離が大きく、レース用に投入するのは難しい印象をもちました。

POWRLINK取り付けの注意

富士スバルラインでの試走を終えて、今回の事象はPOWRLINKのの個体差の問題かとも思い、Wahooのサポート窓口に問い合わせをしてみました。今回の富士スバルラインでのデュアルレコードログを添付しての問い合わせです。

その結果、Wahooサポート担当者からの回答や公式情報[2]から、POWRLINKで正確なパワー測定をするには、以下の何点かの項目を確認して取り付ける必要があるとの回答が頂けました。

  • 1) 最初のライディング時には、停止状態から2〜3回立ちこぎでペダルを慣らし、手動キャリブレーションを実施
  • 2) 付属のペダルワッシャーで取り付け
  • 3) 正確なクランク長を設定
  • 4) 締め付けトルクは30Nmを推奨
  • 5) パワーポッドが接触していないことを確認

上記の注意事項のうち、1)2)3)についてはPOWRLINKに付属マニュアルでは説明されていない項目です。ただし、富士スバルライン登頂開始時には手動キャリブレーションを実施していますし、クランク長さ(180mm)も正しく設定しての試走です。感覚的に締め付けた推奨トルク以外には、取り付け的には問題はありませんでした。

室内での実走比較 (KICKR 2021比 20.0%↓)

Wahooサポートからも取り付けのアドバイスも貰えたので、今度は登坂による温度変化もない室内で、KICKR(2021)+「Direct Connect」[3]の組み合わせで比較してみました。KICKR(2021)は、ハブ型のPowerTap GSと同じく、推進力となる後輪への伝達パワーを計測する直接的な形式です。

室内の自転車にPOWRLINKを取り付け、Wahooサポートに教えてもらった慣らし後、手動キャリブレーションを終え、計測を開始しました。試走は、Zwiftの登り区間を含む「Mountain 8」コースを選びました。「Mountain 8」での計測は、富士ヒルクライムと同じく下り区間を含まない、ラジオタワーをゴールとしました。

室内試走での結果は、屋外のPowerTapとの比較と同じく、KICKR(2021)も全区間平均の絶対値では40Wほど、比率的には20%ほどPOWRLINKの計測値が低い結果となりました。懸念はありましたが、やはり直接的なハブ型と比較すると、POWRLINKは出力される絶対値が低めの傾向があるようです。

平均(W) NP(W) 最大(W)
KICKR (2021) 196W 212W 384W
POWRLINK 155W 169W 337W
差異 (W) 41W↓ 43W↓ 47W↓
差異 (%) 20.0%↓ 20.0%↓ 12.2%↓

同じくDCR Analyzer[1]による全区間の比較図から、PowerTapとのデュアルレコードと同じ結果で、全区間でKICKR(2021)よりPOWRLINK計測値が低い傾向が観察できます。富士スバルラインの翌日の試走で、パワーは高くはありませんでしたが、Wahoo社の製品であるKICKR(2021)と比較しても、PowerTapと同じ傾向、平均(W)で20%ほど、最大(W)で12%ほどの乖離がある結果となりました。

富士スバルラインのように一定ペースで登ったわけではないので、PowerTapでの試走よりもグラフの目視的には乖離が目立ちつ感じもしますが、数値的に平均すると20%前後と、PowerTapと同程度の20%の乖離に落ち着いているようです。

また、今回の本題ではありませんが、「Direct Connect」[3]については、有線接続にもかかわらず、時々0Wになっているのは気になるところです。

ERGモードでの走行比較 (KICKR 2021比 3.7%↓)

再度、POWRLINKの取り付けに問題がない回答と合わせて、屋内のKICKR(2021)のZwiftでの走行比較においても、デュアルレコードログを添付して、20%の乖離がある旨をWahooサポート側に連絡しました。

今回も、KICKR(2021)との乖離についての直接的な回答はありませんでしたが、Wahoo側から指定する手順でのKICKR(2021)とPOWRLINKのデュアルレコードでの動作確認を求められました。具体的には、Wahoo側から指定された以下の画面の検証ワークアウトを、ERGモードで一定のケイデンスで踏みつつ、結果を送ってくださいとの回答でした。

ERGモードでの試走結果は、以下のDCR Analyzer[1]の図のに比較からも目視される通り、ERGモードではKICKR(2021)とPOWRLINKの乖離は大幅に減少する結果となりました。

平均(W) NP(W) 最大(W)
KICKR(2021) 160W 209W 354W
POWRLINK 154W 204W 372W
差異 (W) 6W↓ 5W↓ 18W↓
差異 (%) 3.7%↓ 2.3%↓ 4.8%↓

実走と同じく、全体的にPOWRLINKが低めの出力の傾向は見られるものの、数値的には平均(W)、最大(W)ともにKICKR(2021)からは4%ほどの乖離に収まっています。4%程度の違いであれば、体調や機材の精度などの要因も重なり、実走において主観的な強度で体感的には、明確にパワーメータの不調と感じられる差ではないでしょう。

Wahoo側の最終見解 (製品仕様であり正常)

今回のERGモードでのデュアルレコードログを添付した結果、ERGモードでの結果から、Wahooサポート側としては製品としては正常との回答でした。半ば想定通りの回答ではありましたが、Wahooサポートとしては「POWRLINKの製品的な問題は見当たらず、交換対応の対象とはならない」というのが最終的な結論でした。

今回はWahooの直売ではなく、店頭での購入品でしたので、日本代理店への調査依頼も可能とのことでした。ただし、代理店も今回と同じ検証プロトコルでERGモードでの試験をするだけなので、調査を依頼しても製品としては正常の判断になるだろうとの回答でした。

Wahooサポートや日本代理店から回答頂いた、今回のPowerTapおよびKICKRとのパワー計測の最終回答をまとめると、以下の4点となります。

  • POWRLINKの正常性については、ERGモードのプロトコル試験にて判断する
  • POWRLINKと他社製品とのパワー計測の乖離は、走行状況によってあり得る
  • POWRLINKと同社製品のKICKRとのパワー計測の乖離は、計測方法が異なるためである
  • POWRLINKと複数パワーメーターの混在は、一貫したデータが取れない可能性がある

Wahooとしては、POWRLINKの製品としては異常は見られず「製品仕様を認識の上、利用して下さい」という最終的な見解となりました。

また、今回計測したクランクは、いずれの試走でも180mmクランク(Shimano FC-7700, Campagnolo Record 9S)である点も伝えたのですが、製品として試験されているかなど、Wahoo側から明確な回答はありませんでした。

PowerTap P1の精度は? (KICKR 2021比 0.4%↑)

POWRLINKは、残念ながらERGモードによる検証結果により、製品的な問題はないとの判断でした。そこで、実走でのPOWRLINKの活用は諦めて、手元にある同じペダル型のPowerTap P1をあらためて、KICKR(2021)と比較検証を実施してみました。

POWRLINKは体感でも感じられるほどの乖離がありましたが、PowerTap P1はPOWRLINKのような違和感は感じたことありませんでした。残念ながら廃盤となってしましましたが、PowerTap P1は、今でも信用して使っているペダル型のパワーメーターの一つです。試走は、POWRLINK検証と同じく、Zwiftの「Mountain 8」コースでラジオタワーをゴールとしました。

POWRLINKと同様の検証結果は、KICKR(2021)と全区間の平均で絶対値では僅かに1Wほど、比率的には1%以下の0.40%ほど差異となりました。PowerTap P1は同社のハブ計測型のパワーメーターを基準に開発されていますので、おなじハブ計測型のKICKR(2021)とも遜色ない精度が担保されているようです。PowerTap P1は実走においても、POWRLINKのERGモードの計測より、高精度の計測結果を示しました。

平均(W) NP(W) 最大(W)
KICKR (2021) 215W 231W 443W
PowerTap P1 216W 227W 410W
差異 (W) 1W↑ 4W↓ 33W↓
差異 (%) 0.4%↑ 1.7%↓ 7.4%↓

最大(W)においては、PowerTap P1が絶対値では33W、比率的には7.4%の低下を示しましたが、DCR Analyzer[1]による全区間の比較図においてPowerTap P1、KICKR(2021)共に高精度で計測されており、目視的には両パワーメーターで顕著な乖離は見当たりませんでした。

今回のPowerTapとKICKRの比較においては、以下のように、上記のWaho社の最終見解からは矛盾する結果が得られており、やはりPOWRLINKは他社製品と比較すると本質的な課題がありそうです。

  • POWRLINKと他社製品とのパワー計測の乖離は、走行状況によってあり得る
     → PowerTapにおいては、KICKRと1%未満の誤差で一致
  • POWRLINKと同社製品のKICKRとのパワー計測の乖離は、計測方法が異なるためである
     → PowerTap P1(ペダル型)においては、KICKR(ハブ型)と1%未満の誤差で一致
  • POWRLINKと複数のパワーメーターを混在は、一貫したデータが取れない可能性がある
     → PowerTap P1とKICKRの混在環境では、一貫性において影響は見受けられない

ペダル型パワーメーターの開発方針においては、Wahoo側からの回答は「計測方法が異なるため20%程度の乖離はあり得る」との認識でしたが、Wahoo社の測定精度における開発姿勢は、同じくハブ計測型とペダル型を開発をしていたPowerTap社とは明らかに異なるように感じられるのが残念なところです。

最後に

個人的には、パワーメーターを利用する上で、一番重要なのは計測精度です。計測精度がなければ、トレーニングでは正確な負荷による管理ができませんし、今回の富士ヒルクライムでの試走にあった通り、レースではペーシングにも利用できません。個人的には、20%の測定値の低下は、あまりにも大きな乖離であり、許容範囲を超えています。

現時点では、POWRLINKの実走におけるパワー測定値の乖離の原因は、残念ながら特定できていないものの「製品的には問題ない」と言うのがWahoo側の見解です。ERGモードでの高精度は大きな収穫でしたが、個人的にはERGモードはトレーニングには使っておらず[4]ので、なおかつ室内ではKICKR(2021)がメインなためPOWRLINKの出番はありません。

購入はしてみたものの、現状では、PowerTapやKICKR(2021)のようや直接計測的な精度を求めるのは厳しい感じで、残念な結果となりました。将来のファームウェアのアップグレードでの改善などに期待を求めつつ、活用方法については、もう少し考えてみるつもりです。